末武造園土木です
樹齢130年以上の大きなイチョウ。学校のシンボルツリーです。
ここ数年「すすはん病」が発生しているとのことですが、薬剤散布はとても無理。なので病害に耐えうる樹勢を付けるために土壌改良を施します。
一見樹勢が強そうですが、掘ってみると根系の発達不良が。手作業で根元周りの土壌を掘り起こして改良です。
ここ数年「すすはん病」が目立つから薬剤防除を」というお話でしたが、いろんな側面から検討した結果薬剤散布は無理。
病害にも耐えうる樹勢に育てようということで、土壌改良工事を行うことになりました。
土壌調査には、「横方向」と「縦方向」の調査があります。
横方向は、周囲の環境や傾斜など地表面の構造物などによる影響を調査します。
一方「縦方向」の調査は、普段は目にすることの無い地中の様子を調査します。
そのため、調査地点に断面を観察するための穴を掘ります。
土の断面は、表層から地下へと徐々に変化します。
一般に表層部は落ち葉などの腐植を多く含む土壌で、下層へ行くに従って腐植を含まない礫や岩層になります。
この写真の断面は、学校のグラウンド。このグラウンドの歴史が判ります。
川沿いにあるこの学校の地盤は、建設時に盛土された砂礫層(砂土S)、その上に盛土用の砂っぽい粘土(砂質埴壌土SCL)とグラウンド表層用の砂の多い土(壌質砂土LS)、さらにその上には再造成で盛土されたグラウンドの下層(砂質埴壌土SCL)と表層路盤(壌質砂土LS)。
また、どの層位をとっても土壌硬度は「堅」または「すこぶる堅」。根系発達には支障があります。
腐植の含有量も「なし」か、最低限の「あり」程度。
掘削穴の写真とこの写真から診て先ず判ることは、表面から15cmあるグラウンド土の層にはイチョウの根が全くなく、その下の砂礫層には根が「辛うじて」あるということ。
少なくともグラウンド用の盛土層に利用されている土は、イチョウには根が伸びられないほどの不適な土質だということが判ります。
一般的な植樹に関する土の色は、「褐色」〜「黒褐色」〜「黒色」に変化する中にあります。ただこれらの色を客観的に伝えるのは難しいものです。なので、この「標準土色帳」から同じかほぼ同じ色を見つけ、その色に対応する記号を記録しておきます。
例えば「7.5YR 5/6」のように、客観的に伝えることができる記号で表記します。
この色記号は、マンセル・カラー・システムに準拠して、JIS Z 8721の規格ですから、世界共通なんですよ。
浅層部はもちろん深層部にも、砂礫層には太い支持根見られます。
ですが、細・中の根は稀にある程度。とても養分吸収を賄える量とは思えません。
また吸収根のような直径1mm程度の根が非常に少ないのです。
ちなみにこの土層は水積土で「すこぶる堅」、非常に強く締め固まっています。
この土層もイチョウには不適なんですが、自らが倒れてしまわないように最小限の根(支持根と吸収根の一部)は伸びています。
吸収根の発達
じゃぁ、養分や水分の吸収に必要な「吸収根」はどこに?...
はい、ありましたよ。2層目と3層目の間に、水平方向のみに広がっています。まるで「タタミイワシ」。
深層部は固結と酸素不足で根系の発達は困難。但し地上部支持のための太い根は何本か伸びています。
一方、表層のグラウンド造成土は腐植を殆ど含まないことと固結のため、こちらにも根を伸ばすことができません。
このイチョウの樹勢強化のためには、
1.固結表層の耕耘(こううん)を行い、土壌硬度を柔らかくする。
2.現況は腐植の含有がないので、人為的に腐植分(バーク堆肥)を混入する。
3.砂質の強い土壌構造なので、肥料溶脱を防ぐために吸着用炭化系土壌改良材を混入。
4.土中微生物の絶対量を増やすため、微生物を含む改良材を投与。
と考えます。
固結層全体を改良するのは困難なため、吸収根が多く発生する表層30cm程度の土壌を一旦掘り起こし、現況土にそれぞれ土壌改良材を混合して埋め戻します。
大きく生育した樹木の土壌改良は大変です。
重機械で掘ることはできませんから、全て人力。それもちっちゃなスコップで。まるで遺跡発掘です。
でもこのように掘ることで、どの方向にどの程度の根が伸びているか、それを地上部の生育と照らし合わせることができます。
掘ったまま何時間も放っておくと、根が乾燥して枯死根となってしまうことも。
適宜散水(といってもただの水じゃないです)して、根の乾燥を抑えます。
土壌改良ですが、基材となる「土」は現況、掘り起こしたものを再利用します。
生育してきた基盤の土を使うことで樹木の、土に対する順応性がよいのではないかと考えること、それ以上に残土として搬出して新たに土を購入すると、費用的に高くなっちゃうこともあって、現況土改良で埋め戻します。
改良といっても、単にほぐすだけじゃありません。
土壌改良材を混合して、根系の生育にとって良好な土に変えてから埋め戻します。
有機質系土壌改良材と、無機質系土壌改良材の2種類を使います。あえて肥料は混合しません。
いろんな土壌改良材がありますし使ってもみましたが、この製品が一番良いように感じています。
4月上旬を迎えると、イチョウの新芽も萌芽を始めます。
そのすぐ後、花を咲かせます。といっても雄花は緑色で目立ちません。典型的な風媒花ですね。
萌芽状態の偏りもなく、全体的に平均に新緑が展開しています。
土壌改良が強すぎたり枝葉の部分枯死も無さそうで、ひとまずホッとしています。
今秋に、今回改良した部分を所々掘り返してみて、根系の発達状況を確認してみることにします。
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