近頃、コナラやミズナラ、クヌギやアラカシなどの、いわゆる「ドングリ」の実が付く太い広葉樹が枯れてしまう虫害が発生しています。
今のところ抜本的な対策が無い、「カシノナガキクイムシ」による虫害についてです。
カシノナガキクイムシの成虫は、体長3~4mm程の小さな虫です。
この虫が飛来して、特に大径木に穿孔して辺材部に穴を開けて食害し、樹木を枯らしてしまうのです。
上の写真は雌。この個体の胸部体表には6つの丸い点が見られます。
これが雌の特徴で、この丸い器官は「マイカンギア」と呼ばれる胞子貯蔵器官で、ここに樹木の木質部を腐らせる菌を持ち、樹木内部に腐朽菌を持ち込んで生育させ、樹木の腐朽部を食べるのです。
下の個体は薪割りをしたら出てきた、茶色掛かった個体。
おそらく当年に蛹からかえって日光に殆ど曝されていない個体でしょう。
胸部体表にマイカンギアが見当たらないこと、また胴部下端の形状から見て雄でしょう。
カシノナガキクイムシの穿孔害に遭うと、樹木の根元には「フラス」と呼ばれる、虫糞と切削粉の混ざった「おがくず」が堆積します。
これがカシノナガキクイムシの害に遭った外観的特徴です。
では木の内部を割って見てみましょう。
写真右が樹皮、左に向かって芯材部です。
穿孔害に遭っているのは、樹皮から下の比較的浅い辺材部に集中しています。
樹種によっては芯材部まで穿孔害に遭うものもありますが、殆どの場合は集中的に辺材部が食害に遭います。
そのため形成層など生育に重要な管路に障害を与え、枯れてしまうのです。
幼虫は水平な穴を年輪と同方向(円周状)に掘り進めて食害します。
垂直の穴を時折見つけることができますが、これが蛹室となる場所です。
下の写真中、幼虫を1匹見つけることができますね。
ちょっとグロですが...(^^ゞ
カシノナガキクイムシの幼虫です。
足や体毛はほとんど見当たりません。でももっと倍率の良いもので見れば見当るのかもしれませんね。
薪割りをすると体長5mm程の幼虫が、こぼれるように落ちてきます。
直径40cm程の高さ30cm程の丸太の中には、数万匹のカシノナガキクイムシが入っています。
今回、カシノナガキクイムシのことを非常に詳しくお調べになっている方から講義をいただきました。
一般には地上から3m程度までが穿孔害に遭うといわれていますが、地形や樹木によっては地上13mまで穿孔害に遭っているコナラも発見されたそうです。
小径木やウワミズザクラなどにも穿孔アタック痕が見られるそうですが、若木の場合は樹液の噴出が多く、カシノナガキクイムシの挑戦に遭っても樹液で防ぐことが多いそうです。
そのため枯損害は、活動が低調な「大径木」におおいのです。
またカシノナガキクイムシの害に遭う要素の一つには、その昔は薪木の切り出しで山の木の更新が行われていたため若木が多く害に遭いにくかったこと、そして近年は里山の木が放置され大径木化し、害に遭いやすくなったのではないかと。
今回は、岐阜県緑の博士(グリーンドクター)協議会のセミナーで講義や観察が催されました。